歴史
テコンドーの起源は古く、紀元前1世紀ころの高句麗(こうくり)王族の古墳の壁画に、その原形とみられる武芸の跡が描かれている。また新羅(しらぎ)時代に、政府、社会の組織や秩序の構成と維持に重要な役割を果たした花郎(かろう)(朝鮮音はファラン。上級貴族の子弟による青年戦士団の指導者)が行った花郎道(ファランド)とよばれる武道学が、のちに「テッキョン」「スパック」と呼称される古武術につながったと考えられている。韓国の武道家の崔泓熙(チェホンヒ)(1918―2002)は、こうした朝鮮半島の古武術や中国武術、日本の空手(からて)を基礎とし研究を重ねて独自の技術体系を確立。1955年にテコンドーと命名した。これを整備し競技化させたものが、今日の近代スポーツとしてのテコンドーである。
2019年12月13日
国際組織と国際大会
テコンドーの国際大会の開催やルールの制定などを行う組織として、1973年、韓国のソウルに世界テコンドー連盟(WTF:World Taekwondo Federation)が設立された。WTFは1975年に国際スポーツ連盟機構(GAISF:General Association of International Sports Federations)に加盟。1978年にはアジア地域のテコンドーを統括するアジアテコンドー連盟(ATU:Asian Taekwondo Union)が結成され、1986年のアジア競技大会からテコンドーが正式種目として採用された。1980年には国際オリンピック委員会(IOC)からWTFおよびテコンドー競技が承認を受け、1988年のオリンピック・ソウル大会および1992年のバルセロナ大会では、公開競技として採用。2000年のシドニー大会からオリンピックの正式種目となり、この大会で女子-67キログラム級の岡本依子(おかもとよりこ)(1971― )が日本人初の銅メダルを獲得した。2017年、WTFはワールドテコンドー(WT:World Taekwondo)に改称。2019年時点で209の国・地域が加盟しており、加盟国のテコンドー人口は7000万人を超える。
日本のWT加盟団体は、全日本テコンドー協会(AJTA:All Japan Taekwondo Association)である。AJTAから日本代表選手を派遣しているおもな国際大会には、オリンピック大会、世界テコンドー選手権大会、アジア競技大会、ATUアジアテコンドー選手権大会、世界ジュニアテコンドー選手権、世界テコンドープムセ選手権などがある。
そのほかのテコンドーの国際組織として、1966年発足の国際テコンドー連盟(ITF:International Taekwon-Do Federation)がある。本部をスペインのベニドルムに置き、WTとは異なる技や型、ルールなどによる国際大会等を行っている。
2019年12月13日
競技種目
ここではおもに、IOCの承認を受けているWTのルールによる競技について解説する。
競技種目としては、実戦形式で試合が行われるキョルギ(競技gyeorugi)と、各種の防御と攻撃の型を1人で広い範囲を動きながら示すプムセ(品勢poomsae)があるが、オリンピックに採用されている競技はキョルギのみである。また、身体障害のある選手が行うパラテコンドー・キョルギ(頭部への攻撃は禁止)と、知的障害をもつ選手が行うパラテコンドー・プムセがある。2009年に初の世界パラテコンドー選手権大会がアゼルバイジャンのバクーで開かれ、2020年のパラリンピック・東京大会にはパラテコンドー・キョルギが正式に採用されることとなった。
2019年12月13日
キョルギ(組手)
空手とキックボクシングをミックスしたようなスポーツ性の高いフルコンタクト制(直接打撃制)の格闘技で、とくに足技(あしわざ)が重視される。オリンピックでは男女とも体重別4階級に分かれており、試合時間内に獲得したポイント数によって勝敗を争う。階級区分は、男子が-58キログラム級(58キログラム以下)、-68キログラム級(58~68キログラム)、-80キログラム級(68~80キログラム)、+80キログラム級(80キログラム以上)、女子が-49キログラム級(49キログラム以下)、-57キログラム級(49~57キログラム)、-67キログラム級(57~67キログラム)、+67キログラム級(67キログラム以上)となっている。約11.2メートル四方の正方形をした競技コートは競技エリアと安全エリアで構成され、競技エリアと安全エリアのマットは異なる色でなければならない。競技エリアは正八角形(各辺の長さは約3.3メートル)で、コート中央部に4辺がコートの縁と平行になるように設けられ、正八角形と平行して向き合った辺と辺の間の距離(正八角形の内接円の直径)は8メートルである。競技コートの縁の線を境界線とし、選手の両足がこの境界線を越えると減点される。試合では空手着に似た道着(試合着)の上に、危険防止のため胴プロテクターやヘッドギア、ハンドグローブ、マウスピースなどを装着し、相手への攻撃がプロテクターやヘッドギアをクリーンヒット(鮮やかに命中)することでポイントとなる。試合時間は1ラウンド2分の3ラウンド制で、インターバルは1分。勝敗は獲得ポイントで争われ、ポイントは技の種類ごとに定められている。反則によるペナルティ(相手選手への加点)が与えられることもある。また、攻撃を受けて倒れた相手が10カウント以内にファイティングポーズ(戦うための姿勢)をとれない場合(KO:Knock Out)や、相手のセコンドが試合を中止させた場合(TKO:Technical Knock Out)も勝利となる。3ラウンド終了時点で同点の場合は、ゴールデンポイントラウンドに進み、時間内に1点でも先取した選手が勝ちとなる。このラウンドでもポイントが入らない場合は、主審のジャッジにより勝敗を決する。
攻撃は、胴プロテクターおよびヘッドギアを着用した部位に対してのみ可能で、それ以外への攻撃は厳しく禁じられている。攻撃は胴体に対してはパンチと蹴りの両方、頭部は蹴りのみが可能である。オリンピックなどの国際大会や国内の主要大会では、電子胴プロテクターおよび電子ヘッドギアが使用され、技術の有効性、打撃の強さ、打撃部位の適否が判定される。
2019年12月13日
おもな得点技
おもな技と得点は以下の通りである。
(1)チルギ(1点) 胴部への突き(チルギ)。連打は得点にならない。
(2)モントントラチャギ(2点) 中段(モントン、胴部)への回し蹴り(トラチャギ)。得点の6~7割がこの蹴り技による。
(3)ヨッチャギ(2点) 横蹴り。膝(ひざ)を横向きに抱え込み、遠い間合いの相手を蹴り込む。
(4)オルグルトラチャギ(3点) 上段(オルグル、頭部)への回し蹴り。
(5)ヨップリギ(3点) 掛け蹴り。膝を横向きにし、内側から横に振るように蹴る。
(6)フリオチャギ(3点) 内回し蹴り。内側から相手の側頭部を蹴る。
(7)パンダルチャギ(3点) 半月蹴り。外側から相手の側頭部を足裏で蹴る。
(8)ネリチャギ(3点) 落とし蹴り。足裏を相手の顔面に打ち下ろす。
(9)ティチャギ(4点) 後ろ蹴り。半回転し直線的に蹴る。
(10)ティトラチャギ(5点) 後ろ回し蹴り。膝を横向きにし後ろ向きに回転しながら蹴る。
(11)ティオティチャギ(5点) 飛び後ろ蹴り。飛びながら回転を加え、直線的に蹴る。カウンター攻撃で多くみられる。
(12)ティオティトラチャギ(5点) 飛び後ろ回し蹴り。ジャンプし、後ろ向きに回転しながら蹴る。
2019年12月13日
反則
ペナルティは「カムチョン」(減点)と主審によりコールされ、試合中に選手が10回のカムチョンを受けた時点で、その選手は失格となる。おもな反則は、相手をつかんで投げる、または突き飛ばす、「止(や)め」(カルリョ)がかかってからの攻撃や倒れた相手への攻撃、相手の顔面への手による故意の攻撃、肘(ひじ)・膝を使った攻撃、頭突き・投げ技などである。さらに選手またはコーチによる不品行な言動や競技の進行を妨害するような行為が反則とされ、主審が注意しても1分以内に従わなかった場合には負けが宣告される。
2019年12月13日
プムセ(型)
キョルギと同じく足技の美しさを特徴とし、攻防の技を1人で練習できるようにつくられたテコンドーの技術体系。テコンドーにおける各種の防御・攻撃技術の組合せにより構成されており、一定の演武線(進行線)にしたがって、四方八方に動きながら型を行う。各級ごとに演じる型が決まっており、単純な動きから級が上がるごとに複雑な動きへと、段階を追って技術を身につけられるように構成されており、一般的な道場ではキョルギよりも多く練習が行われている。
プムセには下級から順番に、太極(テグ。1~8章)、高麗(コウリョ)、金剛(クンガン)、太白(テベック)、平原(ピョンウォン)、十進(シッチン)、地胎(チテ)、天券(チョングォン)、漢水(ハンス)、一如(イルリョ)という17の型がある。競技会では、プムセの正確さ、呼吸、力や速度といった技術面や、動作の美しさ、完成度などが審査される。2006年にソウルで第1回WTF世界プムセ選手権が開催された。プムセもオリンピック種目への登録を目ざしている。
2019年12月13日
役割
テコンドーは古代王朝社会の秩序維持と調和のために用いられた武道を源流とすることから、精神面における鍛錬も重視され、「礼、義」を基本精神とする。防御と攻撃からなる多彩な技の組合せによる試合を展開するが、限定された攻撃範囲を限定された攻撃手段だけで戦うというルール遵守の精神を確立するためには、厳しい自主規制を必要とし、技の鍛錬と並行して、日常的「道」の修練がたいせつな要素になる。
そのためテコンドーは、修練者の(1)心身運動、(2)空挙闘技、(3)現代スポーツ、(4)教育の役割として存在する。
(1)心身運動 男女を問わず、子供の発育・成長、青壮年者・高齢者の体力・健康増進に大きな効果を及ぼす。テコンドーの技術体系と運動体系は、身体の各関節を左右平均に駆使することを促し、関節の柔軟性をもたらす。また精神的ストレスの解消にも大きな役割を果たす。
(2)空挙闘技 素手、素足で防御・攻撃する技術体系をもち、とくに他の武術とはっきりとした違いを示すのは、足技の偉力と多様性である。いかなる武器も使用せず、防御技術を優先して習得する。テコンドーを学ぶ人の修練の目的は、けっして他の者を攻撃・制圧することではなく、自己の心身を統御することである。
(3)現代スポーツ 空挙闘技として人命にかかわるような危険を排除し、合理的で平等に競技ができるような競技規則と防御用具を開発したことにより、スポーツとしての遊戯性、安全性、規則性、経済性をすべて備えている。
(4)教育 テコンドー修練の目的は修練者が人間らしい人間になること、すなわち人間の身体的条件と同時に精神的あり方の改善を目標とする。テコンドーの教育的役割は、修練者が平和志向的な技術体得原理を理解し、礼節教育を通じて、広範囲な人間生活における適応力を高めるためにあるといえる。
そのテコンドーの魅力はというと技の多彩さと足技にあります。技の総数は約3200通りもあり、その全ては科学的な裏打ちがなされています。そのうち手 技が2000、足技が1200あり、テコンドーの”速さ”と”重さ”の理論からなる華麗かつ破壊力のある足技は『足技最強の格闘技』、『足のボクシング』 と称されるほどです。
テコンドーはその技術が理論的に体系化されているため誰にでも学びやすいものになっており、競技以外でも、護身術としての一面や、ストレッチを繰り返すことによる血行改善や適度に汗を流すことで健康増進やストレス解消、ダイエット効果などが得られる一面もあります。
この『誰にでもできる』といった点が世界中の老若男女に愛され、近年急速に広まっていった要因の1つでもあります。